個人再生で「家をのこしたまま借金を整理できる」ってどういうこと?

債務整理について、あなたのなかにはどんなイメージがありますか?

自己破産なら借金がチャラになる。

任意整理なら話し合いで借金をへらしてもらい、過払い金がもどってくる。

特定調停なら裁判所の力を借りて、安い費用で借金をへらす。

そして個人再生なら、持ち家を手放すことなく、借金だけをへらせる。

なんてふうに考えているのではないでしょうか。

債務整理手続きのなかでも、個人再生はとくに「住宅ローン返済中の持ち家を手放さなくていい」というイメージが強いです。

ただ、「そもそも、どうして持ち家をのこしたまま借金を整理できるのか」ってよくわかりませんよね。

どうしてサラ金や銀行、消費者金融からの借金やマイカーローンなどは整理するのに、住宅ローンだけ特別あつかいするのでしょうか。

今回は、「持ち家を手放さなくていい」理由である、「住宅ローン特則」についてのお話をしていきます。

「住宅資金貸付債権に関する特則」とは

住宅ローン特則、「個人再生をしても持ち家を手元にのこすことができるルール」をより正確にいうと、「住宅資金貸付債権に関する特則」となります。

住宅ローン特則は、個人再生の根拠である「民事再生法」の第10章、第196条から第206条までのまるまる1章ぶんを使うくらい、個人再生において重要な特則です。

特則によって住宅ローンだけは通常の借金とべつのあつかいをするからこそ、「住宅ローン以外の借金をおよそ5ぶんの1」にしつつ、「住宅ローンだけは、返済をつづければ持ち家を手放さなくてもいい」といった、うれしい効果を手にできるわけです。

特則の中身、条文をつらつらと説明をするのは難しすぎるので、ここでは「どうして住宅ローンだけ特別あつかいするのか」を見ていきましょう。

そのためには、まず住宅ローンの仕組みを考える必要があります。

住宅ローンの仕組みを振りかえってみよう

持ち家は高いですよね。

人生のなかでもっとも高い買いものだといわれるくらい、高額です。

数千万単位、場合によっては億をこえるお金がないと購入できません。

高額すぎて一括で買うことのできる人がほとんどいないので、たくさんお金をもっている銀行などに一旦一括で家を買ってもらい、あなたがあとからすこしずつ返済をしていく。

このときに銀行などから借りるお金、借金がいわゆる「住宅ローン」です。

住宅ローンと抵当権

住宅ローンには、通常「抵当権」がついています。

抵当権とは、簡単にいうと「返済がおくれたら持ち家を取りあげて、売り払うこともできますよ」という債権者の権利です。

住宅ローンの返済中に個人再生をした場合、債権者は「借金を取り戻せなくなる」わけですから、抵当権を行使して「持ち家を取りあげて売却」し、その売上で「返済されないローンの補てん」をすることができます。

もしも住宅ローン特則がなかったら、ローンを完済していない人が個人再生をした場合、持ち家からの立ち退きを要求されてしかも家を売却されてしまうわけです。ローン返済中の自動車でもおなじですよね。

ただ、持ち家というのは生活の基盤ですし、なによりせっかく買った持ち家をすぐに取りあげられたら借金返済のやる気だってなくなってしまいます。

債務整理をしたあとの継続的な借金返済のためには、あなたの収入と生活が安定している必要があります。

本来なら抵当権があるので住宅も取りあげられてしまうのですが、むやみやたらに持ち家を取りあげるとあなたの生活や今後の返済にも支障をきたす。

そこで「なんとか住宅ローンだけは特別あつかいできないものか」と考えて用意されたのが、「住宅ローン特則」なのです。

ちなみに、民事再生法のまるまる1章ぶんもつかって条文をつくりこんでいるのは、

  • 効果が大きいだけに、慎重に運用する必要があるから
  • 住宅ローンは個人再生の目玉で、債務者保護のためにも重視すべき特則だから
  • きちんとつくりこんでいないと、偏頗弁済に反してしまうから

などの理由が考えられます。

住宅ローン特則のメリットとは

住宅ローン特則があるため、個人再生をしても抵当権を行使されない。

持ち家を取りあげられないから家から立ち退きを求められることもないし、持ち家に住んだまま借金の返済をしていくことができる。

これが、住宅ローン特則のメリットであり仕組みです。

借金を大幅にへらして持ち家をキープできるほかにも、住宅ローンの滞納額を再生計画の返済ぶんにふくめたり、住宅ローンの返済期間そのものを延長する、なんて特例も利用することができます。

借金返済をしていくうえで持ち家を奪われない、というのは生活だけでなく精神的な安定にもつながる大きなメリットです。

要注意!ただし、利用できない場合もある

住宅ローン特則にも利用条件があり、例えば住宅ローンを半年以上滞納していると特則を利用することができません。

個人再生では「絶対に持ち家を手放さなくていい!」というわけではないので、注意しておきましょう。

くわしくは、次回以降の記事で説明していきます。