「最低弁済額<清算価値」になってはいけない!
「小規模個人再生は最低弁済基準額が決められている」では、小規模個人再生における「弁済額の決まり方の基本」を説明しました。
ですが、小規模個人再生の弁済額について考えるなら、もうひとつのルールについても抑えておかなければなりません。
それが、「清算価値保障の原則」です。
小規模個人再生をする人が行う弁済額は、「かならず清算価値以上でなければならない」のです。
「清算価値」だなんて普段生活していて使う機会のないことばなので戸惑ってしまいますが、個人再生の弁済額を決めるうえでとても大切な原則です。
実際にはけっこう簡単なことをいっているので、どういうルールなのかいっしょに確認していきましょう。
個人再生における「清算価値保証の原則」とは
小規模個人再生でも給与所得者等再生でも、どちらの手続きをするとしてもかならず守らなければならないのが「清算価値保証の原則」です。
清算価値というのは、「あなたの財産資産すべてを売り払った売却額」のこと。
もし最低弁済額基準から求めた弁済額が精算価値より低い金額だった場合、清算価値ぶんの弁済をしなければなりません。
ようするに、「個人再生をする人は、最低弁済基準額に関係なく、自分がもっている財産の価値以上の金額を弁済しなければいけませんよ」というルールなのです。
どうしてこんなルールがあるのでしょうか。
じつは、清算価値保証の原則があるのは「債権者保護」のためであり、「個人再生を認めてもらうため」なのです。
債権者保護のための原則
自己破産をすると、あなたは債権者にびた一文払わずに「借金をすべてチャラ」にできます。
ただし、あなたの借金をチャラにするだけでは債権者に公平ではありません。
そこで自己破産ではあなたの財産を差し押さえて、財産を競売にかけて売り払った売却益を債権者でわけあうことになります。
さあ、鋭い人はもう気づいているかもしれません。
あなたがもっている財産を売り払った額、というのはつまり「清算価値」のことですよね。
あらゆる債務整理のなかで一番債権者が損をする自己破産であっても、債権者は最低限「あなたがもっている財産の価値=清算価値」ぶんのお金を回収できるわけです。
小規模個人再生であなたが支払う弁済額が「清算価値」を下回ると、債権者たちは自己破産をされるよりも損をしてしまうことになります。
これでは債権者にとって不公平なので、債権者の利益を守るために清算価値保証の原則がつくられているのです。
清算価値保証の原則があるからこそ、個人再生を認めてもらえる!
小規模個人再生では、再生計画の認可をしてもらうために「債権者の合意」が必要です。
債権者がいやだといってしまえば、個人再生をすることはできません。
もし清算価値保証の原則がなければ、「自己破産されるよりも、個人再生をされるほうが債権者が損をする」ケースがうまれますよね。
債権者にとってあなたに自己破産されたほうがお得なら、当然再生計画になんて合意してくれません。
債務整理は、「借金で困っている人」が経済的に立ちなおるためのチャンスを与えることでどんどんお金を稼いで使ってもらい、経済を回してもらうのが目的の手続きです。
高額な財産をすべて失ってしまう自己破産は、借金で困っている人に対する最終手段。
財産をもったまま借金を整理できる個人再生にくらべると、経済的に立ちなおるのは自己破産のほうが圧倒的に難しいです。
なので、国としては自己破産より個人再生のほうが好ましいのです。
「個人再生より自己破産のほうがお得」なんてことになって、自己破産者が増えると日本の経済にも影響がでます。
清算価値保証の原則をもうけることで、「個人再生のほうがお得だから」債権者が再生計画に合意できるようにしているのです。
清算価値保証の原則がないと、個人再生そのものが立ちゆかなくなってしまいます。
実務上のあつかいは難しい・・・
債権者の権利を保護するためにある清算価値保証の原則ですが、じつは小規模個人再生ではちょっと実務上のあつかいが難しいです。
車や不動産など所有者の登録が必要な財産はべつとして、ブランド品やちょっと高額な美術品なんてだれが所有者なのかを調べるのも困難ですし、時価で換算する財産だと専門家に聞いてみないといくらになるのかわかりません。
結局のところ、裁判所があなたの資産を徹底的に調べるか、あなたが自分で弁護士に頼んで資産の評価をしてもらわないと、正確な「清算価値」は計算できないのです。
そもそもの話、小規模個人再生をするほど借金に追いつめられている人が、そんなに高額な財産をたくさんもっているでしょうか。
もちろん、高額なブランド品などを買うのが目的で借金している人もいますが、返済に困ったらそういったものを売り払って返済なり生活費なりにあてていますよね。
なので実際には、最低弁済基準額が清算価値を下回ることはそう多くありません。
それでも、原則は原則です。
個人再生の制度を支える原則に、こういうものがあるんだということも理解しておきましょう。